佐藤みさ子の百二十句

スタンプの下で平たくなってみよ
死ぬ人も死なせる人もいらいらす
無作為に助けましたと指が言う
冷蔵庫の扉の指紋研究所
まず影に気づき知人とすぐ気づく
どこまでが椅子でどこから身体だろう
殴り合ってからそれからを考える
午後二時のからだ探して木から木へ
口をあけると唇がやぶれる
棚という棚で重さを売っている
鳥族の眼と眼が向かい合っている
夜の家ふいに御飯が炊きあがる
燃えあがる山へトイレを設置する
すれ違う時まっくらな人の首
表情を消した理由を述べなさい
水田にあなたは包囲されている
等間隔にネギを寝かせていく儀式
水槽で人を育てていくつもり
死んでしまった後も花屋はおことわり
布団かけておけばいつかは起き上がる
銀杏の樹連れて帰ってどうするの
「暗いね」と見回すひまわり畑にて
洗濯機の中へ誰でも入れます
胸あけてみれば暴力映画館
しっぽさえあれば続けるボクシング
背の高い人を箱から出しましょう
ぼろぼろと床に幼児をこぼすなよ
フライパンむかしはこんなかおですか
銃は銃であるよう躾する
草色の指を地上に出している
目をこらして見るとあなたの両親です
血眼で料理するのをやめましょう
よその人とよその子なかよく立っている
せんたくものなら絡み合う風の日に
座ってくださいね画面の外側に
鼻は矢印なのだと気づく
見なかったなんて一番前に居て
恐れていた花束が来る ははの日
すくすくと育っているか母親は
ちょっと戦争へなまの戦場へ
死んでしまってからの力がすごくなる
家に近づくと道路が細くなる
「おまえたち」と呼び掛けられたあなたたち
手と足を消した理由は特に無い
浴室に古い桜の木が一本
自己紹介骨格模型見せながら
出来事の前と後ろを手で隠す
からだから手足を遠く離しなさい
きれいにそろう発疹のワンピース
楽しかったとトイレのドアを開けに行く
こんにちはのあとのくちびるのどうくつ
家出する人にずうっと従いてゆく
チリホコリ花粉わたくし滞空時間
姿勢からわかる叫びのようなもの
思い出は足から先におとろえる
話しかけすぎてミカンが返事する
人形の肘に年輪あるような
昨日のわたしが今日の体を借りている
遠いところで始まりますという電話
かなしいことがあって五月がうつくしい
思い出すたびに忘れるたびに鳴く
紅葉狩りそろそろ教育委員会
出来事の前後左右はふつうです
滝見台先刻までの敵味方
いつか又会いましょうネと濁る空
おひなさま飾る野原を継ぎ足して
八重むぐら刈れと大声出している
電車とホームのすき間に靴を脱ぎましょう
すれ違う人の名前をかんがえる
果樹園で守られているこどもたち
親なのか子供なのかと手でさわる
家族だったような気がするよその人
「チカイマスカ」「ハイ」と銀杏が降りそそぐ
「よろしく」のあとは見開く目になった
よちよちと歩いて帰る大人たち
この辺に私は居たと主張する
出来事は大きい順にならびなさい
本日休みますずっと休みます
絵の中に住もうと誘う人の腕
玄関を出ると列車が来て止まる
徒競走どこまで走ってよいものか
「顔無し」と「顔無し」見つめ合う電車
年齢を問われて脚の骨を出す
立春やはじめましてと親が言う
花びらを食べたがるのは口ではなく
靴下を脱げば誰だかわかります
もういいと紙が言うので筆を置く
二人で食う意味を一人で考える
帰りましょう家と反対方向へ
決して視線を合わせてくれぬひき肉屋
特別な手を渡されて銃を持つ
災いに布をかけると人のかたち
老人になって出てくる美容院
議論する迷彩服が似合うまで
同姓同名のあなたを好きになれません
白菜の意志をたしかめようとする
隅々に目を光らせる赤ん坊
正しいと言ってあげよう百年後
まるで一匹まるで一頭立ち尽くす
まっ黄色になって今夜も立っている
きび団子もらう理由はありません
傍らに居る「おまえはだめ」と言う人の
現在地読みとる仕事ならやめた
暴言の数だけ祝うたんじょうび
目を凝らすなぜ濁点が必要か
無菌工場ではたらいている長いこと
水面のどれも花びらではないの
原発さんに預けたままの赤ん坊
土蔵崩れて千年分のきものたち
無いと言え目に見えぬから無いと言え
教科書にのせよう東京電力を
「いや」と言う子供しみじみ人である
どんぐりを拾う私を捨てながら
どの家の窓もマスクを付けましょう
しらじらと平行線が見えるでしょ
「一年生になった」と誰のメールだろう
動物の言葉わかれば怖いだろう
歯を見せていたねと叱る叔母の群れ
言い訳して歩く見知らぬ人々に
この指はほんとは何で出来てるの

(「川柳杜人」182号~249号、小池正博 抄出)

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